
天の岩戸(あまのいわと/岩戸隠れ)は、弟スサノオの乱暴に心を痛めた太陽神アマテラスが天の岩屋戸に隠れ、世界が暗闇に包まれる日本神話のひとつ。困った八百万の神々が岩戸の前に集い、オモイカネの計略、アメノウズメの舞、アメノタヂカラオの怪力によってアマテラスを外へ導き、世界に光が戻る。太陽の死と再生、秩序の回復を象徴する代表的な神話として知られます。
| 読み | あまのいわと/いわとがくれ(岩戸隠れ) |
|---|---|
| 主な登場文献 | 『古事記』『日本書紀』 |
| 主な舞台 | 高天原(天の岩屋戸・天の安の河原) |
| 登場する主な神 | アマテラス、スサノオ、オモイカネ、アメノウズメ、アメノタヂカラオ、アメノコヤネ、フトダマ ほか八百万の神 |
| 主題 | 太陽の隠れと再生・秩序の回復・神々の協働 |
| ゆかりの地 | 天岩戸神社(宮崎県高千穂町)・天安河原 |
高天原を訪れた弟スサノオは、田の畔を壊し、神聖な機織りの場に皮を剥いだ馬を投げ入れるなど、度を越した乱暴を重ねます。これに心を痛め、また傷ついたアマテラスは、天の岩屋戸(あまのいわやと)に身を隠し、戸を閉ざしてしまいます。太陽神が姿を消したことで高天原も葦原中国(地上)も暗闇に包まれ、夜が続き、あらゆる災いが一斉に湧き起こったとされます。『古事記』『日本書紀』ともにこの危機を物語の起点として描きます。
困り果てた八百万(やおよろず)の神々は、天の安の河原(あまのやすのかわら)に集まって対策を協議します。知恵の神オモイカネ(思金神)が中心となって計略を立て、まず常世の長鳴鳥(とこよのながなきどり=鶏)を集めて鳴かせました。さらにイシコリドメ(石凝姥命)が八咫鏡(やたのかがみ)を、タマノオヤ(玉祖命)が八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を作り、アメノコヤネ(天児屋命)とフトダマ(布刀玉命)が鹿の骨を用いた占い(太占)を行い、祝詞を奏上して、岩戸の前にこれらを掲げる賑やかな祭りの場を整えます。
祭りの中心となったのが、芸能の女神アメノウズメ(天宇受売命)の舞です。ウズメは伏せた桶(うけ)の上に乗って踏み鳴らし、神懸かり(かみがかり)の状態で胸をあらわにし、装束をはだけて激しく踊りました。その姿に八百万の神々がどっと笑いさざめき、その笑い声で高天原全体が揺れ動いたと伝えられます。閉ざされた岩戸の外で起こる思いがけない賑わいと哄笑が、内にこもったアマテラスの関心を引く仕掛けとなりました。
暗闇のはずの外がなぜこれほど賑わうのか不審に思ったアマテラスが、岩戸をわずかに開けて様子をうかがいます。すると神々は「あなたより尊い神が現れたので皆喜んでいる」と告げ、差し出した八咫鏡にアマテラス自身の姿を映して見せます。鏡に映る光に引き寄せられて身を乗り出した瞬間、傍らに隠れていた力自慢のアメノタヂカラオ(天手力男神)がその手を取って岩戸の外へ引き出し、フトダマが背後に注連縄(しめなわ)を張って再び戻れないようにしました。こうして世界に光が戻り、秩序が回復します。なお、このとき作られた八咫鏡と八尺瓊勾玉は、のちに三種の神器のうちの二つとされます。
乱行の責めを負ったスサノオは、髭と爪を切られ、財物を科せられて高天原から追放されます(神逐/かむやらい)。地上に降りた彼は、出雲でヤマタノオロチ退治へと向かいます。岩戸隠れの舞台については、宮崎県高千穂町の天岩戸神社が岩屋戸を、近くの天安河原が神々の協議の場をそれぞれ伝承地とします。また、アメノタヂカラオが投げ放った岩戸が長野県の戸隠山になったとする伝説もあり、同地の戸隠神社は彼を祀ります。