古事記(こじき)は和銅5年(712年)に成立した、現存する日本最古の歴史書です。稗田阿礼(ひえだのあれ)が誦習した伝承を太安万侶(おおのやすまろ)が筆録・編纂し、天地開闢の神代から推古天皇の時代までを上・中・下の3巻にまとめています。岩戸隠れやヤマタノオロチ退治など、日本神話の主要な物語の多くは、この古事記を主な出典としています。
| 分類 | 歴史書・神話/史書 |
|---|---|
| 成立 | 和銅5年(712年) |
| 巻数 | 上・中・下の全3巻 |
| 撰録 | 稗田阿礼(誦習)/太安万侶(筆録・編纂) |
| 命じた天皇 | 天武天皇が発意、元明天皇の代に完成 |
| 範囲 | 天地開闢(神代)〜推古天皇 |
| 文体 | 変体漢文・万葉仮名を交えた和文寄り |
古事記の編纂は、天武天皇(在位673〜686年)が、当時諸家に伝わる「帝紀」「旧辞」の異同を正そうと、記憶力に優れた舎人・稗田阿礼に正しい伝承を誦習(しょうしゅう/暗誦・習得)させたことに始まります。天武天皇の崩御で事業は一時中断しましたが、のちに元明天皇の命を受けた太安万侶が、阿礼の誦習する内容を筆録・編纂し、和銅5年(712年)正月にこれを撰上しました。冒頭の序文は太安万侶自身の手によるもので、成立の事情を伝える貴重な記録となっています。
古事記は上・中・下の3巻からなります。上巻は天地開闢に始まる神々の物語(神代)で、イザナギ・イザナミの国生み、アマテラスの岩戸隠れ、スサノオのヤマタノオロチ退治、オオクニヌシの国譲り、ニニギの天孫降臨などを収めます。中巻は初代・神武天皇から応神天皇までの時代、下巻は仁徳天皇から推古天皇までの時代を扱い、歴代天皇の系譜や事績、歌謡を記しています。
日本神話としてよく知られる物語の多くは、この古事記を主要な出典としています。神々の系譜や名前の表記、物語の筋立ては、後世の信仰・文学・芸能に大きな影響を与えました。古事記は本文に多くの歌謡(記紀歌謡)を含み、固有名詞や語りの調子を万葉仮名で書き留めている点でも、古代の言葉や口承のあり方を伝える資料として重視されています。
古事記の8年後、養老4年(720年)には『日本書紀』が成立しました。両書は同時期の編纂事業に由来し、共通する物語も多い一方で、性格が異なります。日本書紀は全30巻・漢文の編年体で、天皇の事績を年代順に記す史書としての色合いが濃く、異なる伝承を「一書(あるふみ)に曰く」として併記します。これに対し古事記は3巻・和文寄りの変体漢文で、神々の物語を比較的まとまった筋として語る傾向があります。古事記を国内向け、日本書紀を対外的な正史とみる見方もありますが、これは性格を理解するための一つの整理であり、単純に割り切れるものではありません。物語の細部も両書で食い違うことがあり、神名の表記(例:天照大御神/天照大神)にも違いが見られます。